2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のため、まだ健康であるにも関わらず両方の乳房を切除したニュースは世界で報じられました。
当時37歳だったジョリーさんは、遺伝子検査で「将来乳がんになる確率が87%」と判定されています。
(このコンテンツは「週刊現代」2013年6月8日号180~185ページを参考にしました)
「予防切除」は勇気ある決断か
ジョリーさんは母親を乳がんで亡くしていて、乳がんを発症しやすい遺伝子を母親から受け継いでいたと考えられています。
がんの発症が危惧される箇所をあらかじめ切除する「予防的切除」は近年注目を集めています。
がんが発症しそうな部分を、健康なうちに切り取るのは思い切った決断であり、特に乳房は女性を象徴するパーツです。
ジョリーさんの行為は「勇気ある決断」といったニュアンスで、肯定的に報じられていたようです。
「行き過ぎた処置」と懸念する医師も
しかし乳がんの原因遺伝子特定プロジェクトにも関わった、ニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンターのケネス・オフィット医師のように、懸念を示す専門家もいます。
確かに彼女の告白によって、遺伝性乳がんやその予防処置に注目が集まりました。
しかし米国ではここ数年、遺伝子の変異がないにもかかわらず、乳がん予防のために乳房を切除してしまう女性が急増しているのです。
意識を高めるのはいいですが、少し行き過ぎではないかと思います。
検査結果を聞いてパニックになり、どうしても切除すると言って聞かない女性がいる一方で、再建手術をすれば手術前より乳房の形がよくなると期待する人さえ出ているのです。
予防切除への周知が広がった一方で、弊害も起きているようです。
それでは、日本ではどうなのでしょうか?
日本での乳がん予防切除は?
2014年現在、日本では米国のような予防的切除は実施されていません。
しかし、国内のがん研究を牽引するがん研究会と聖路加国際病院が、乳がんの予防的切除・再建の臨床研究を検討しています。
たとえ乳がんになりやすい家系であっても、必ずがんを発症するわけではないのは、言うまでもありません。
しかし「いつ発症するかわからない」と不安を感じながら生きるよりも、切除してしまったほうがいい、との考えにも一理あります。
結局は本人の意識次第ということになります。
がんに対する心構えや予防法は、新たな考え方が必要な時代になったと言えそうです。
実は切除しても罹患確率はゼロにはならない…
ちなみに、上で紹介した二人は、それぞれ次のように語っています。
アンジェリーナ・ジョリーさん
乳房を切除するという決断を下すのは、容易なことではありませんでした。
ですが、そう決めてよかったと思います。
私が乳がんになる確率は87%から5%以下に下がったのです。(※管理人注:ゼロではないのですね・・・)
子供たちにも、ママを乳がんで亡くす心配はもうないのよ、と言ってやれます」
ケネス・オフィット医師は…
一度切った体は、もう二度と元に戻らない。
ですから、軽率に体にメスを入れようとしている女性たちは、十分にカウンセリングを受け、考えたうえで決めなくてはならないと思います」